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伊勢湾台風がきっかけで始めた養豚から、北海道No.1の” 米愛豚”が生まれるまで

2017.12.21

米愛豚(まいらぶた)をご存じでしょうか? 厚真町にあるエフティファームが育てているブランド豚のことです。ホクレンが主催する「2016年度北海道枝肉共励会」の肉豚部門では、最優秀賞に選ばれました。どういう経緯で、北海道ナンバーワンの豚になったのでしょうか。生産農場エフティファームでお話を聞いてみると、養豚を始めたきっかけは、なんと伊勢湾台風からの復旧時に食料確保に奔走した経験からでした。

 

「災害時でも食料を確保できるように」と養豚をはじめた

– 本日はよろしくお願いします。さっそくですがお二人の名刺を見ると、武田さんは有限会社厚真ファームとあり、副島さんは株式会社エフティファームとあります。ふたつの会社はどういった関係なのでしょう。

武田:副島の名刺にあるエフティファームというのは、もともと厚真ファームで行っていた肉豚の生産部門を分離独立させる形で2011年に設立した会社です。ですから米愛豚も当初は厚真ファームで生産していました。ちなみにエフティというのは、私たちの親会社であるフジトランスコーポレーション(FUJITRANS CORPORATION)の「F」「T」から来ています。フジトランスコーポレーションは海運業をメインとした総合物流の会社で、本社は名古屋にあります。

– なぜ物流の会社が、肉豚を生産しているのですか。

武田:フジトランスコーポレーションは昭和27(1952)年に創業した会社です。当時は藤木海運株式会社という名前で、名古屋港を拠点に木材荷役で発展しました。ところが昭和34(1959)年に伊勢湾台風が襲来し、台風によって一時的に港の機能は完全に失われました。大量の木材が名古屋の街に流れ込み、業務を復旧するまで「3年かかる」と言われるところ、約1年で復旧したそうです。

その間ただ指をくわえて状況がおさまるのを待っていたわけではなく、「まずは復旧作業を」という社長の一声で、全社をあげて木材の撤去作業をしました。

しかし人間動けば腹が減ります。炊き出しをしながら復旧に勤しむ中、食料自給率の低い日本の現状に思い至りました。もし貿易摩擦で社員や地域の人が食べ物に困ることになったら…そこから「自分たちで食料を生産できるようにしよう」と、本業の海運業とは別に食肉事業を始めることになりました。

– 台風による災害がきっかけだったなんて、珍しいですね。

武田:そうですよね。最初に手がけたのは、養豚です。昭和57(1982)年に岐阜県の農場(現在出荷頭数18,000頭)から始めました。その後、苫小牧港のある北海道にも農場をつくろうということになり、昭和60(1985)年に厚真ファームを開設しました。

食関連事業としては、ほかにも三重県尾鷲市にエフティアクア有限責任事業組合(2009年設立)という組織をつくりました。地球温暖化が叫ばれる中、われわれのフィールドである海の生物多様性を守ろうと、「幻の高級魚」と呼ばれるマハタやウマヅラハギの海面養殖に取り組んでいます。マハタは伊勢神宮に奉納しているんですよ。

 

社員への福利厚生が、地域貢献にもつながっている

– なるほど。物流会社が食の生産に携わっている理由が分かりました。不測の事態が起こった場合でも食料を確保できるよう体制を整えた、というわけですね。ここ厚真ファームでは現在、何を生産していますか。

武田:厚真ファームは現在97haの敷地を所有していて、黒毛和牛の繁殖をはじめ、米、じゃがいも、かぼちゃ、とうもろこし、小麦などの生産をしています。
フジトランスコーポレーショングループの3,000人を超える社員やその関係者への福利厚生として作物を提供したり、一般向けに出荷したりしています。

米愛豚もときどき頒布会を行いますが、毎回すごい反響です。特に米愛豚のハム・ソーセージはお中元やお歳暮に人気があります。その時期はうちも出荷作業でてんてこ舞いです。

– 北海道のお米や野菜、お肉となれば、みなさんに喜ばれそうですね。厚真ファーム、エフティファームが畜産だけではなく、水稲や畑作まで行っているのはどうしてでしょうか。

武田:循環型の農業を達成したいという思いからです。牛や豚を飼うことで出る糞尿を堆肥にして畑に入れる。畑で採れた牧草や穀物を彼らに与える。さらに、小麦を収穫したあとの麦稈(麦わら)は牛の寝わらとして厚真ファームで活用する。複数の作物を手掛けることで、それぞれを繋ぎ相互に活かしあい、循環する仕組みにしています。

ほかにも、町内の高齢農家から委託を受けて使わなくなった農地で牧草を栽培し、牛のエサとして与えています。水田転作によって補助金が出るので、その土地を所有する高齢農家の現金収入にもつながっています。厚真ファーム、エフティファームでは、このようにして周辺地域と一体となった耕畜連携の取り組みを進めています。

– 社内の福利厚生と地域への貢献を同時に行っているということですね。

武田:親会社としても、営利が目的であればもう何年も前に撤退していたでしょう。でも福利厚生という意味合いを持って生まれたファームですから、なんとか30年間こうして続けてこられたわけです。

実際、社員の新人研修も毎年ここで行っています。昨年の6月にも20人ぐらいの社員が来て町内の清掃活動をし、厚真ファームで牛の世話と農作業を体験しました。うちで研修した翌日は共和町にある社有林で植樹活動も行っています。

– 物流に関わる社員も一次産業を体験することで得られるものがあるわけですね。

武田:なにしろ私自身も、もともとはまったくの“畑違い”ですからね。ここに来るまでは物流しかやったことがなかった人間ですから。入社してフォアマン(港で荷役作業の調整・指揮監督をする職種)になり、そのあと現場から離れて北海道、仙台、東京を転々として5年前ここに来ました。

着任した最初の年は私も農場スタッフですよ。1年間農作業をみっちり経験して2年目に社長になりました。だからね、経営をしながらも彼ら現場の農場スタッフと同じ目線で会話ができるんですよ(笑)。

副島:そうですね(笑)。

– 副島さんはプロパー社員なのですか。

副島:はい。10年前に厚真ファームに入社し、畑、牛、豚、すべて担当して最終的に豚におさまったという感じです。ずっと現場を担当しています。

– 豚のご担当は副島さんを含め何名いらっしゃいますか。

副島:5人です。私が最年長でして同期が一人いるほかはみんな私より若いスタッフです。5人で年間8,000頭の出荷を目標に管理しているので…、けっこういっぱいいっぱいです(笑)。

 

「特A米」がお好き!? とってもグルメな豚たち

– 会社のことがよく分かりました。それではいよいよ本題。米愛豚についてです。エフティファームの生産する米愛豚が、北海道ナンバーワンという高い評価を受けました。どんな豚なのでしょうか。

副島:米愛豚は、出荷する約60日前からお米を混ぜた飼料を与えて仕上げた肉豚です。お米を食べさせることで、きめ細かくやわらかな肉質になり、うま味が増すといわれています。実際、うま味成分のグルタミン酸と不飽和脂肪酸のオレイン酸が一般の豚よりも多く含まれ、脂肪の融点が低いという分析データがあります。

武田:やっぱり一番は、脂身が違いますね。とにかく脂がしつこくなくて旨い。私は60歳を過ぎていますが、ロース肉をステーキやトンカツにしても、この豚なら胸焼けを起こさずペロッと食べられちゃうんです。

– どうしてお米を与えることにしたのでしょうか。

副島:7年ぐらい前だと思いますが、ある取引先から「お米を食べさせては?」と提案をいただきました。それで玄米を粉砕して飼料に混ぜて食べさせてみたところ、たしかに肉質が向上したんです。その後、飼料に混ぜるお米の割合を少しずつ変えて試験しました。5%、7%、10%の3パターンです。しかし5%ではほかに比べて効果が薄い。10%では脂分が多すぎてベチャッとなってしまう。最終的に配合割合は7%に落ち着きました。

米愛豚というブランドで出荷するようになったのは2010年からですね。この年に商標登録を取っています。当初は飼料用のお米を使っていました。飼料用米というのは主食用米に比べてたくさん収穫できるのが特徴です。ところがこの辺りというのは泥炭地で、籾(もみ)がつきすぎると、その重さで稲が倒れてしまうんですね。倒れて水に付いてしまえば飼料としても使えません。収量を増やすつもりが、かえって収量を減らしてしまっていたんです。

それで現在は飼料用米の栽培をやめて全量主食用米「ななつぼし」に切り替え、豚に与えています。「ななつぼし」といえば、ご存じのように日本穀物検定が行っている食味ランキングで最高位の「特A」に6年連続選ばれているお米です。私たちがおいしくいただいているお米と同じものを、豚に食べさせているんです。

– ずいぶんグルメな豚なんですね(笑)。

 

おいしい豚肉の秘けつは、技術のみならず愛情にあり

– ところで、いまお話を伺っているこの事務所から牛は見えるのですが、豚の姿が見えません。豚はどこにいるんでしょうか。

武田:豚舎(とんしゃ)はここから1.5kmぐらい離れたところにあります。豚は特に病気に対してデリケートなので、とにかく病気を持ち込まない・持ち出さないよう、離れた場所で管理しています。

副島:私たちのように豚舎内で作業をする人間は、豚舎に入る前にシャワーを浴びて汚れを落とし、場内専用の作業服に着替えます。さらには豚房(とんぼう)ごとに靴を換えて移動するたびに消毒をします。

武田:豚舎に入れるのは基本的に従業員だけです。取引先の方がみえたときも豚舎のある農場ではなく、すべて事務所で対応するようにしています。郵便物・宅配物も事務所で受け取ります。原則、部外者は農場に入ることはできません。

私でさえ出張で空港を利用したときにはどんな菌を保有しているか分からないので3日間は豚舎には入りません。ほかの農場に行った場合には1週間は入らないようにしています。ほかの農場からの病気が一番怖いからです。衛生管理はとにかく徹底しています。家畜保健所やワクチンメーカーからアドバイスをもらい、HACCPに準拠した管理を行っています。

– 豚の管理で最も気を遣うのはどんなことですか。

副島:豚舎内の温度ですね。私たちが育てているハイポー種という豚は暑さに弱いんです。ですから夏は特に気を遣います。朝・昼・晩欠かさず豚舎内の温度をチェックし、暑ければカーテンを開けて換気したり、扇風機を回します。目安は20~25℃です。夜まで気温が下がらないときがあるので、そういう場合は誰かが夜まで居残って温度調節をします。

冬は寒さを防ぐために豚舎内の窓という窓に内側からビニールシートを貼ります。こうすることで窓とシートの間に空気の層ができ、断熱効果が高まります。
豚たちが寒がっているのか暑がっているのかは、彼らの様子を見ていれば分かります。寒ければ体を寄せ合って寝ていますし、暑ければ離れます。ストレスなく快適に過ごせるよう、年間通して一定の環境をつくることが私たちの仕事です。

– 豚の様子をつぶさに観察しながら、もの言わぬ豚たちの声を聞いているというわけですね。一頭一頭しっかり目を掛けて温度やエサの管理をしたり、種付けがうまくいくよう母豚に接したり。最後はやっぱり作業するみなさんの経験や技術にかかってくるんですね。

副島:そうですね。そして経験や技術と同じく、大事なのは愛情です。

– 愛情をかければ変わるものでしょうか。

副島:入社した当初は私も半信半疑でした。やるべきことをやれば結果は同じだろうと。愛情が大事だということに思い至りませんでした。けれども私と一緒に働いていたある先輩飼育スタッフは、豚に一生懸命愛情を注いでいました。それは周りから見ても明らかでした。

すると不思議なことに半年間ずっと愛情を注いで育てた豚の方が、私の育てている豚よりも、順調に成長し、病気にかかる個体も少なかったんです。それを見てようやく私も気がつきました。それからですね。技術を磨くことと同じくらい、愛情を注ぐことが大事だと思うようになったのは。

武田:豚というのは人為的に交配を繰り返して“つくった”動物です。だから産まれた子どもに対して愛情がないんですね。母豚が子豚を潰してしまうという事故はけっこう起こります。そうならないよう周りの人間が愛情を補ってやらなければいけない。そのことを副島たちは知っています。私たちの豚が北海道枝肉共励会で過去に2回(2009年度・2016年度)も最優秀賞をいただくことができたのは、副島をはじめ農場スタッフ全員の努力のたまものです。

– 愛情をいっぱい受けて育った米愛豚。実は原則、米愛豚の一般販売はしていないため、非常に入手が困難です。ちなみに飲食店では名古屋にある直営飲食店「豚かっぽう まいら」と厚真町内の「ゆるり」、それに一部の店に卸先は限られているそう。

なかなか手に入らない“幻のブランド豚”であった米愛豚でしたが、2016年6月より「ふるさと納税」の返礼品に加わりました。これに合わせ従来の精肉、ハム・ソーセージに加えて、豚丼やハンバーグも新たに開発。商品ラインアップが充実しました。武田さんのイチオシは豚丼。焼いてタレをかけるだけで簡単に調理できるそうです。ロース(ロースハム)やバラ(ベーコン)、肩ロース(チャーシュー)、ウデ(ウインナー)など、さまざまな部位を詰め合わせたセットもあります。愛情コメて育った米愛豚。ぜひ一度、お試しください。

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